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表現の自由と清原報道

16年02月06日

No. 1810

現代の政治戦においては、マスコミがどう動くかによって、情勢・勝敗が大きく変わる。だから、あらゆる権力は、マスコミを味方に付けることを狙っている。非自由主義国家では、マスコミは国家の支配下にある。しかし、自由主義国家においては、表現の自由という、権力にとっての大きな壁がある。表現の自由を否定する体制は、もはや自由主義国家の範疇に入らない。従って、マスコミに対する介入は、微に入り細に入り行われる。

権力と闘う側も、マスコミを通じて民衆を味方に付けなければならないので、マスコミ対策は、野党等の戦闘分野となる。野党には“表現の自由”という伝家の宝刀があるのだから、この分野における闘いに全力を注がなければならない。現代の政治家には、マスコミを通じて自分の政治的見解を宣伝する能力が求められる。

安倍首相は、マスコミを通じて世論を味方に付けようと努力しているが、彼の政治的力量の不足のため、あまり成功しているとは思えない。しかし、安倍首相はマスコミを支配しようとして、恥も外聞もなく介入している。わが国のマスコミには、これに抗しようという意思も矜持もない。国民にとって、これが最大の不幸であることは論を()たない。

マスコミと報道の在り方は、現在の政治戦における前哨戦そのものであるのだが、野党がこの分野で努力しているとは思われない。わが国のマスコミにあって圧倒的な存在感をもっているNHKの在り方については、国会に設置されている総務常任委員会で論戦を行えるのだ。だが、あの場において、野党がNHKの在り方について、積極的な論戦を挑んだのは、久しく目にしていない。

何度も指摘しているのだが、野党や国民には、表現の自由という伝家の宝刀があるのだ。これを切り口にすれば、NHKや大手マスコミの現状について、いくらでも論戦を挑める筈である。国会で、マスコミの在り方について野党が質の高い議論を展開するだけでも、マスコミの側にも緊張感が生じ、結果として、多少なりとも、現状は改善されていくだろう。

ルドルフ・フォン・イェーリングは講演録『権利のための闘争』の中で、「権利の生涯とは闘争なのだ ─ 民族の、国家権力の、階級の、そして個人の闘争である。実際、権利は衝突の表現としてのみ意味を持っており、人類が自らを飼いならそうとする努力の顕れなのだ。」と述べている。表現の自由という伝家の宝刀も、これを絶えず磨かなければ役に立たなくなってしまう。

表現の自由は、自由主義社会の最も基本的・根源的な理念である。これを(ないがし)ろにする安倍首相は、もはや自由主義者などではないと、国民は認識する必要がある。現在の安倍首相や、内閣や、マスコミの在り方について問題点を突き付ければ、論点などいくらでもある筈だ。しかし、これを蔑ろにしている野党にも、本当に自由主義者なのかという疑問さえ生じてくる。猛省を促す。

以上述べたことは、自由主義者であり、郵政政務次官として放送行政にも携わった経験をもつ、私の意見と見解である。だから、毎日放送を見る度に、私は憤慨しイライラしているある(笑)。だが、このような立場からみてもいちばん難しい問題が、特定の話題・テーマによるテレビジャックである。今週について言えば、清原和博元野球選手の覚醒剤違反事件である。北朝鮮のミサイル発射報道も、この類なのではないか。

ここで言うテレビジャックとは、ある事件やテーマを報道することにより、他の事件やテーマを報道しないことを指す。Aという事案とBという事案の、どちらにどれだけ価値をおくかという問題である。これは、あらゆる表現や報道にいつも付き纏う難しい問題であるが、特に、政治的な発言や報道ではシリアスな問題として問われるのだ。清原事件が大した問題ではないというつもりはないが、ハッキリ言って、度を超していた。その点において、報道の責任が問われる問題なのだ。

権力者やこれに迎合するマスコミは、このテレビジャックという手法を使って、国民の政治批判を避けようとする。これを見抜く力を、国民は持たなければならない。衆議院予算委員会では安倍首相が、憲法問題について好き勝手なことを(のたまわ)っている。憲法に関することは、一言半句でも大問題なのだが、最近のマスコミは、敢えて蔑ろにしようとしている。これが、わが国のマスコミの悲しい現状なのである。

今日は、このくらいにしておこう。それでは、また。

  • 16年02月06日 08時32分PM 掲載
  • 分類: 8.マスコミ論

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