国家意思の殺人
10年07月21日
No.1442
金賢姫(キム・ヒョンヒ)元北朝鮮工作員が来日した。金賢姫らが行った大韓航空機爆破事件について、当時の私は、大きな関心を持たざるを得なかった。日韓議員連盟の役員だった関係上、私は年に3~4回訪韓していた。その頃は、韓国でも軍事政権に対して金大中・金泳三などの野党政治家が挑戦し、大統領選挙でも善戦を挑む情勢だった。そのような中で北朝鮮が大艦航空機爆破事件を起こせば、軍事政権を利することは明らかだった。そのような政治情勢の中で、なぜ北朝鮮が爆破事件を起こすのか、どうしても私には理解できなかったのだ。
それとは別に、マスコミを通じて報道される事件報道は、変なスパイ小説よりも興味深いものであった。金賢姫という、ボンド映画に出てくるような美貌の工作員の登場は、国際政治に無関心な者にも興味をかき立てた。金賢姫が中東から韓国の金浦空港に護送された時、私はたまたまその空港にいた。あの時の異様な緊張感は、忘れることができない。この前、アメリカでロシアのスパイが捕まって、ロシアで捕まっていたアメリカのスパイと交換されたが、冷戦以前のスパイにはもっと緊張関係があった。金賢姫も、自殺した同僚の老工作員も、日本の偽造パスポートを持っていた。否が応でも、日本人の関心は高まらざるを得なかった。
拉致問題は、当時まだ全容が明らかになっていなかった。李恩恵(リ・ウネ)と呼ばれた謎の日本人の存在が、拉致事件との関連を疑わせる程度だった。20数年という歳月の経過により、私たちが事態を理解できるようになったのだ。それにしても、北朝鮮の国家意思ひとつで、120人近くの乗客が乗った航空機が爆破されたのだ。同じようなことは、北朝鮮だけではない。ある国家の意思ひとつで、数百人・数千人ときにはそれを超える人々の命が奪われている。金賢姫の来日を機に、そんなことを考えさせられている。
それでは、また。